
こんにちは、物語の知恵袋のふくろうです。
映画『スペル』を見終わったあと、私がいちばん引っかかったのは「ここまで逃げ回って、ここまでやったのに、それでも助からないのか」というラストでした。銀行員のクリスティンは老婆ガーナッシュ夫人に呪われ、わずか3日間で日常も仕事も人間関係も壊されていきます。
しかも本作は、ただ怖いだけのホラーではありません。老婆との激しい格闘、入れ歯、虫、体液、突然の大出血など、気持ち悪いのにやりすぎて笑えてしまう場面が何度も入ってきます。その悪趣味な楽しさが続いた末に待っているのが、封筒の取り違えによってすべてがひっくり返る救いのない結末です。
この記事では、2009年のサム・ライミ監督版『スペル』について、クリスティンが呪われた理由からラミアの正体、ボタンに宿った呪いのルール、墓場での逆襲、そして最後に何が起きたのかまで時系列で追っていきます。なお、2020年の同名映画『Spell』とは別作品です。
ここから先は映画『スペル』(2009)の結末まで完全にネタバレしています。未鑑賞の方はご注意ください。
この記事でわかること
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映画『スペル』のあらすじと結末
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クリスティンが呪われた理由
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ラミアとボタンの呪いの仕組み
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封筒の取り違えとラストの意味
映画スペルの作品情報
まずは2009年版『スペル』の基本情報と主要人物を確認しておきます。同じ邦題や似た題名の作品があるため、ここを押さえておくと混同しにくいですよ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 邦題 | スペル |
| 原題 | Drag Me to Hell |
| 製作年 | 2009年 |
| 製作国 | アメリカ |
| 上映時間 | 99分 |
| 監督 | サム・ライミ |
| 脚本 | サム・ライミ、アイヴァン・ライミ |
| ジャンル | オカルトホラー |
主要キャストと登場人物
主人公クリスティン・ブラウンを演じるのはアリソン・ローマン。銀行で融資を担当し、次長への昇進を目指しています。恋人クレイ・ダルトンはジャスティン・ロング、住宅ローンの延長を求めるガーナッシュ夫人はローナ・レイヴァー、占い師ラム・ジャスはディリープ・ラオ、霊媒師ショーン・サン・ディナはアドリアナ・バラッザが演じています。
クリスティンは最初から冷酷な人物ではありません。地方出身で、都会の銀行で認められたい気持ちがあり、恋人クレイの家族からも好意的に見てもらいたいと考えています。つまり本作は、最初から悪人が罰を受ける物語ではなく、普通の人が一つの判断をきっかけに逃げ場を失っていく物語なんです。
◆ふくろうのワンポイント
タイトルは『スペル』ですが、原題は『Drag Me to Hell』です。直訳に近い意味は「私を地獄へ引きずり込んで」。結末まで見ると、原題がほとんどラストそのものを言っていたことが分かります。
スペルのあらすじをネタバレ

ここからは映画『スペル』の物語を、呪いが始まるところから結末まで順番に追っていきます。最後のどんでん返しを理解するためには、序盤に登場するボタンとコインの存在が特に重要です。
老婆の返済延長を断る
銀行で働くクリスティンは、空いた次長の座を狙っていました。しかし同じポストを狙う同僚もおり、上司からはより厳しい判断力を見せることを求められています。
そんな彼女の窓口へ現れたのが、シルヴィア・ガーナッシュ夫人でした。ガーナッシュは住宅ローンの返済期限をさらに延長してほしいと頼みます。すでに複数回の延長が認められていたため、銀行として断ること自体は不自然ではありません。
クリスティンも一度は上司に相談します。ところが最終的には、自分が「決断できる人間」だと示すため、延長を認めない道を選びました。
ガーナッシュは人前で膝をつき、家を失いたくないと懇願します。それでも判断は変わりません。クリスティンは警備員を呼び、老婆を銀行から連れ出させました。ここでガーナッシュが受けたのは、家を失う恐怖だけではなく、人前で恥をかかされたという屈辱でもあったのでしょう。
駐車場でラミアを呪われる
その日の仕事帰り、クリスティンが車に乗り込むとガーナッシュが待ち伏せしていました。車内では、ホラー映画というより格闘映画のような激しい争いが始まります。
ガーナッシュは入れ歯が外れてもクリスティンへ噛みつき、クリスティンも車内にある物を使って必死に反撃します。怖いはずなのに、あまりにも大げさでどこか笑えてしまう。この場面から、サム・ライミ監督らしい悪趣味なユーモアが一気に加速します。
そしてガーナッシュはクリスティンの上着からボタンを引きちぎり、何かを唱えながらそのボタンへ呪いをかけます。聞こえてくる言葉が「ラミア」。この瞬間から、クリスティンは3日後の地獄行きへ向けて追われることになります。
見えない何かに襲われる
ガーナッシュとの一件のあと、クリスティンの周囲で異変が続きます。強い風が吹き、家の中で物音がし、姿の見えない何かに襲われる。眠れば悪夢を見て、起きていても安心できません。
さらに彼女は突然大量の鼻血を出し、日常生活や職場にも影響が出始めます。目に見えない存在に狙われているため、周囲には事情を説明しにくいところも厄介です。
恋人クレイは彼女を気遣いますが、呪いをそのまま信じているわけではありません。クリスティン自身も、最初は精神的な衝撃や体調不良なのではないかと考えます。しかし怪異は少しずつ、偶然では済ませられないところまで迫ってきます。
ガーナッシュはすでに死亡
クリスティンは、すべての始まりであるガーナッシュに謝ろうとします。ローンの件をやり直せば、怒りを鎮められるかもしれないと考えたのでしょう。
ところが家を訪ねると、ガーナッシュはすでに亡くなっていました。部屋には親族が集まり、葬儀の最中です。クリスティンが遺体へ倒れ込んだ場面では、ガーナッシュの口から出た液体を浴びるという、いかにも本作らしい生理的にきつい演出まで入ります。
ここで大きいのは、呪いをかけた本人が死亡しても、呪いそのものは終わらないことです。謝罪する相手がいなくなり、クリスティンは怪異のルールそのものと向き合わなければならなくなります。
ラミアの呪いの正体
クリスティンを追う存在は何なのか。ここから物語は、単なる怪奇現象ではなく、明確な期限とルールを持った呪いとして進んでいきます。
3日後に魂を奪う悪魔
占い師ラム・ジャスは、クリスティンに取り憑いている存在がラミアだと見抜きます。作中で語られるラミアは、呪いの対象を3日間苦しめたあと、その魂を地獄へ連れ去る存在です。
つまりクリスティンに残された時間は最初からわずかしかありません。怪物を倒せば終わる話ではなく、時間切れになれば問答無用で連れていかれる。この期限付きの恐怖が、『スペル』のテンポを速くしています。
また、ガーナッシュ本人が亡くなってもラミアは消えません。呪いを発動させた人物と、実際に魂を奪いに来る存在は別だからです。
ラミアの呪いで重要なのは、ガーナッシュを倒すことではなく、呪いの対象から外れること。ここを理解すると、後半で「ボタンを誰かに渡す」という方法がなぜ出てくるのか分かりやすくなります。
ボタンが呪いの媒介になる
ガーナッシュが引きちぎったボタンは、ただの服飾品ではありません。呪いを受け渡すための媒介になっています。
クリスティンはこのボタンの所有者である限り、ラミアに狙われ続けます。逆に言えば、正式に別の人物へ贈ることができれば、呪いは新しい所有者へ移る。これが終盤で示される最後の脱出方法です。
ただし当然、代償があります。自分が助かるためには、別の誰かを地獄行きの危険へ押し出さなければなりません。
クリスティンは態度の悪い相手や職場のライバルなどを候補に考えます。しかし、実際に人を犠牲にするとなると簡単には決められません。ここで本作は、呪いから逃げる方法を見つけたあとにも、もう一段階の嫌な選択を突きつけます。
除霊の儀式はなぜ失敗した

ボタンを誰かへ渡す前に、クリスティンは呪いそのものを追い払う方法も試しています。その中心になるのが、霊媒師ショーン・サン・ディナによる儀式です。
霊媒師サン・ディナの儀式
ラムの紹介でクリスティンが頼るのがショーン・サン・ディナです。彼女にはラミアと過去の因縁があり、怪異を別の器へ移す方法で対抗しようとします。
ここでは見えない存在との攻防が一気に激しくなります。ラミアを呼び出し、別の存在へ封じ込めようとしますが、計画は完全には成功しません。サン・ディナは命を落とし、クリスティンの呪いも残ったままです。
ここまでくると、クリスティンには「専門家に任せれば助かる」という逃げ道もなくなります。そこで最後の方法として示されるのが、呪いのボタンを他者へ贈ることでした。
クリスティンは善人ではない
本作を面白くしているのは、クリスティンを完全な被害者として描き切らないところです。
彼女は昇進のためにガーナッシュへの対応を厳しくし、呪いに追い詰められると、助かるために危うい選択までしていきます。愛猫を犠牲にする場面もあり、見ていて「そこまでやるのか」と感じる人は少なくないでしょう。
でも、だからといって地獄へ落とされるほどの罪なのかと言われると、話は別です。住宅ローンの延長を断ったことと、永遠に地獄へ引きずり込まれる罰は釣り合いません。
クリスティンには欠点がある。でも、呪いの方が明らかに理不尽。私はこのバランスが、本作を単純な因果応報の話にしていない理由だと思います。
墓場で呪いを返す作戦
いよいよ時間がなくなり、クリスティンは「誰にボタンを渡すのか」という決断を迫られます。そして彼女は、誰か新しい犠牲者を選ぶのではなく、ある人物へ返す方法を思いつきます。
死んだ老婆へ返そうとする
クリスティンが選んだ相手は、すでに死亡しているガーナッシュ本人でした。自分に呪いをかけた張本人へ返せばいい。ラムに確認すると、死者を相手にしても贈ることは可能だと分かります。
そこでクリスティンは墓地へ向かい、豪雨と泥の中でガーナッシュの墓を掘り返します。序盤では銀行の窓口にいた女性が、終盤では夜の墓地で棺を開けて死体と格闘している。この変化がものすごいですよね。
彼女は封筒に入れたボタンをガーナッシュへ突きつけ、「お前が地獄へ落ちろ」と言わんばかりに返します。これで呪いは移った。3日間の悪夢は終わった。クリスティンも観客も、ここでいったん安心します。
◆ふくろうのワンポイント
この墓場の場面が成立するのは、クリスティンが最初から勇敢だったからではありません。追い詰められ続けた結果、恐怖より「生きたい」が上回ったからです。被害者がどんどん荒っぽくなっていくところも、『スペル』のブラックな笑いだと思います。
封筒が伏線になっていた
ところが、この作戦には決定的な落とし穴があります。
クリスティンはそれ以前に、恋人クレイが大切にしていたコインを封筒に入れて扱っていました。そして移動中に書類や封筒を散らかしたことで、ボタンの入った封筒とコインの入った封筒が入れ替わっていたのです。
映画はこの事実をすぐには明かしません。だからクリスティンも観客も、「墓場で正しい封筒を渡した」と思い込んだまま翌日を迎えます。
ラストの衝撃は、突然新しいルールを出して作ったものではありません。序盤から出ていたボタンとコイン、よく似た封筒という要素を使っています。だから見終わったあとに振り返ると、「あそこで入れ替わっていたのか」と納得できるんです。
スペルの衝撃の結末

墓場から一夜明け、クリスティンは完全に助かったつもりでいます。ここからの短い時間が、本作でもっとも残酷な仕掛けです。
クレイの手元にボタンが残る
クリスティンは新しいコートを着て、クレイと旅行へ出発するため駅へ向かいます。これまでの恐怖を乗り越え、新しい生活が始まるような穏やかな空気です。
そこでクレイが取り出したのが、例のボタンでした。
クリスティンはその瞬間、何が起きたのか理解します。自分が墓へ持っていったのはボタンではなく、クレイのコインだった。本物のボタンはずっと手元に残っていた。つまり、呪いは一度も彼女から離れていなかったのです。
この場面がきついのは、クリスティンが「あと少しで助かった」のではないところです。彼女は助かったと思っていただけで、ラミアとの契約上は何も解決していませんでした。
クリスティンは地獄へ落ちる
真実を知ったクリスティンは動揺し、駅の線路側へ後ずさります。そして線路へ落ちた彼女の足元から、炎とともに無数の手が伸びてきます。
クレイの目の前で、クリスティンは地中へ引きずり込まれていきます。3日間逃げ続け、儀式を試し、墓まで掘り返したのに、最後にはタイトルどおり地獄へ連れていかれてしまう。
『スペル』は、主人公が助かる希望を最大まで見せた直後、その希望を完全に奪って終わります。
ホラー映画では、怪物を倒したと思ったら最後にもう一度現れる展開があります。しかし本作はそれより意地が悪い。怪物が復活したのではなく、そもそもクリスティンのミスによって呪いが解除されていなかったからです。
ラストの流れ
クリスティンは墓場でボタンをガーナッシュへ返したつもりになる → 実際に渡したのはクレイのコイン → 本物のボタンはクレイが持っていた → 呪いは解除されていない → 3日目の期限が来てクリスティンが地獄へ引きずり込まれる、という流れです。
なぜ最後まで逃げ切れなかった
クリスティンが敗れた理由を「封筒を間違えたから」で終わらせることもできます。ただ、物語全体を見ると、もう少し嫌な構造が見えてきます。
最後のミスは偶然だけではない
直接の原因は封筒の取り違えです。しかし、その取り違えが起こった背景には、クリスティンが極度に追い詰められ、冷静さを失っていたことがあります。
彼女は短期間で怪異に襲われ、職場でも失態を見せ、恋人の家族との食事でも追い詰められ、命の期限まで告げられています。誰かへ呪いを移すべきかどうかまで考え続け、精神的にも余裕がありません。
だからこのラストは、「ただドジをしたから死んだ」というより、呪いが3日間かけてクリスティンを疲弊させ、その混乱の中で最後の判断ミスを生んだと見ると納得しやすいです。
自業自得だけでは説明できない
クリスティンはガーナッシュに対して冷たい判断をしました。ただし彼女は、最初から老婆を苦しめることを楽しんでいたわけではありません。
銀行員としての立場、昇進への欲、周囲から認められたい気持ち。そのすべてが混ざった末の判断です。善人でも聖人でもないけれど、地獄行きが当然と言えるほどの悪人でもない。だから観客は彼女を完全には突き放せません。
一方のガーナッシュも、家を奪われる恐怖と屈辱を受けています。それでも相手を永遠の地獄へ送る呪いは明らかに過剰です。
私は、本作が気持ちよく勧善懲悪にならないところが好きです。誰か一人を「絶対に悪い」と決めれば終わる話ではなく、ちょっとした利己心、怒り、復讐心が連鎖して取り返しのつかない結果になります。
怖いのに笑える理由
『スペル』は救いのない結末なのに、鑑賞中は意外と楽しい映画です。その理由は、サム・ライミ監督が恐怖と笑いをほとんど同じ勢いでぶつけてくるからでしょう。
汚さを限界まで大げさにする
本作では、血だけではなく、入れ歯、唾液、虫、泥、鼻血など「できれば触れたくないもの」が何度も画面へ出てきます。
しかも見せ方が妙にしつこい。ガーナッシュが顔を近づける、口が開く、嫌な予感がする、その直後に想像以上のものが飛んでくる。この繰り返しです。
普通なら不快感だけが残りそうですが、やりすぎることで笑いに変わります。怖い、汚い、でもちょっと面白い。この感情の行き来が、99分の中でほとんど途切れません。
驚かせる間の取り方がうまい
もう一つ印象的なのが、静かになった直後に一気に襲ってくる演出です。
風の音が強くなる。部屋の中の物が揺れる。何も起きないように見える。少し安心した瞬間に、突然何かが飛び込んでくる。分かりやすい方法なのに、タイミングがうまいので何度も驚かされます。
この「怖くなるぞ」と思わせてから少し外し、気が緩んだところで襲うやり方は、本作全体のラストにもつながっています。墓場で呪いを返したあと、映画は一度しっかり安心させます。その安心が大きいほど、最後の絶望も大きくなるわけです。
呪いに追い詰められる主人公という点では、同じく怪異が日常を壊していく作品として『スマイル2』のネタバレ考察も近い面白さがあります。現実と怪異の境界が崩れていくタイプのホラーが好きなら、あわせて読むと違いが見えてきますよ。
原題が示すラストの意味

邦題『スペル』は「呪文」「まじない」といった意味を連想させます。一方、原題『Drag Me to Hell』はもっと直接的です。
最初から結末を宣言している
『Drag Me to Hell』は、そのまま読めば「私を地獄へ引きずり込んで」。少なくとも作品のイメージとしては、地獄へ引きずられることを真正面からタイトルにしています。
そして実際のラストでは、クリスティンが地面の下から伸びた手につかまれ、クレイの目の前で文字どおり地獄へ引きずり込まれます。
つまり原題は、結末を隠していたわけではありません。最初から答えに近いものを見せながら、「本当にそこまでやるのか」と観客に思わせ、最後にそのまま実行します。
ここにもサム・ライミ監督の意地の悪いユーモアがあります。助かる物語だと思って見ていたのに、タイトルどおりだった。考えてみれば何も嘘はついていないんですよね。
助かった瞬間が一番危ない
私が『スペル』でいちばん面白いと思うのは、「助かった」と思った瞬間をラストのために使っていることです。
クリスティンは墓を掘り返すという大仕事をやり切り、呪いを返したと確信します。翌日は新しいコートを着て、恋人との旅行へ向かう。普通の映画なら、この流れは生還後のエピローグです。
しかし『スペル』では、その幸福な空気そのものが罠になります。クレイがボタンを見せた瞬間、観客はクリスティンとほぼ同時に「終わっていなかった」と理解します。
怖い場面を連続させるだけでは、観客も慣れてしまいます。本作は逆に、一度安心させることで恐怖を復活させる。この構造が、最後まで効いています。
◆ふくろうのワンポイント
私はこのラストを「クリスティンが罰を受けて当然」というより、「呪いは人間の事情を一切くんでくれない」という結末として見ています。後悔したか、改心したか、頑張ったかは関係ない。ルールを破れなければ期限どおり連れていく。その冷たさが怖いんです。
スペルが後味悪い理由
『スペル』はラストが有名な作品ですが、後味の悪さは主人公が死ぬことだけではありません。観客が「そろそろ報われてほしい」と思うところまでクリスティンを追い込み、その気持ちごと裏切るからです。
努力が報われない結末
クリスティンは何もしなかったわけではありません。ガーナッシュへ謝りに行き、占い師へ相談し、霊媒師の儀式にも参加し、最後には自分で墓を掘ります。
通常なら、ここまで行動した主人公には何らかの生存ルートが用意されそうです。ところが本作は、その努力を帳消しにします。
しかも原因は、戦いで負けたからでも、ラミアの力が急に強くなったからでもありません。封筒を間違えたという、ごく人間的なミスです。だからこそ「そんなことで全部終わるのか」という悔しさが残ります。
クレイだけが真相を見る
もう一つつらいのは、クレイの立場です。
彼はクリスティンの話を完全には理解できなくても、最後まで彼女を支えようとしていました。旅行へ出かける駅では、二人にとって新しい始まりになるはずでした。
ところが目の前でクリスティンが地獄へ引きずり込まれます。クレイは最後の最後で、彼女が話していた異常な出来事が本当だったと突きつけられることになります。
主人公だけでなく、残された人物にも救いがない。この点も、本作のラストが強く記憶に残る理由です。
呪いそのものが物語を動かすホラーが好きなら、映画『夜勤事件』の呪いと結末の考察もあわせてどうぞ。怪異のルールを追いながら真相へ近づくタイプの作品です。
クリスティンが呪われた理由
物語の発端だけを見ると、「ローン延長を断ったから呪われた」と説明できます。ただ、映画を見ていると、それだけでは少し足りません。ガーナッシュが怒りを爆発させたのは、金銭的な問題と同時に、銀行の中で恥をかかされたと感じたからです。
仕事上の判断と私欲が混ざる
クリスティンは銀行員として、返済を何度も延長している顧客へ厳しい判断を下しました。ここだけなら、仕事として説明できる部分があります。
しかし彼女は、次長への昇進をめぐって同僚と競っていました。上司から「厳しい決断が必要だ」と見られていることも意識しています。だからガーナッシュの相談は、単なる顧客対応ではなく、自分の評価を上げる機会にもなっていました。
このわずかな私欲があるため、クリスティンは完全な被害者には見えません。一方で、彼女が社会人として抱く欲としては特別珍しいものでもありません。仕事で評価されたい。恋人の家族に認められたい。今の自分より少し上へ行きたい。そんな普通の願いが、最悪の相手と最悪のタイミングでぶつかってしまいます。
ガーナッシュの復讐は過剰
だからこそ、ガーナッシュの復讐は恐ろしいんです。
もしクリスティンが明確な悪人なら、観客は「罰が返ってきた」と距離を取れます。しかし本作では、彼女の選択に問題はあっても、地獄へ送られるほどとは思えません。
ガーナッシュは家を失う恐怖、貧しさ、人前での屈辱を抱えていたのでしょう。それでも相手の魂を奪う呪いをかけるのは、常識的な報復の範囲を完全に越えています。
この不釣り合いさが、怪異の怖さにつながっています。呪いは裁判ではありません。事情を聞き、責任の重さを測り、妥当な罰を決めてくれるわけではない。一度標的にされれば、ラミアは決められた期限に向かって淡々と追ってきます。
ラストにつながる伏線
『スペル』の結末が印象に残るのは、最後だけ突然ひっくり返すのではなく、必要な材料を事前に見せているからです。
ボタンとコインが並ぶ
最重要なのは、もちろんボタンとクレイのコインです。どちらも小さな物で、封筒に入れられています。クリスティンが追い詰められた状態で荷物を散らかし、似た封筒を扱う場面があるため、取り違えが起きる余地はすでに作られていました。
観客は呪いの方へ意識を向けているので、封筒の中身を細かく追い続ける余裕がありません。そこを利用して、映画は「ボタンは墓へ行った」という思い込みを作ります。
安心させる時間も伏線
もう一つは、駅へ向かうまでの穏やかさです。
墓場の激しい場面を越えたあと、クリスティンは新しいコートを着て、クレイとの未来へ向かいます。映像の空気も、まるで事件が終わったあとのように変わります。
この安心感そのものが、ラストのための準備です。観客が疑い続けていれば、ボタンが出てきても「やっぱり」となるだけ。しかし映画は一度しっかり終わった気分にさせるので、クレイがボタンを見せた瞬間の衝撃が大きくなります。
つまり『スペル』のどんでん返しは、秘密の情報を後出しするタイプではありません。見えていた情報の意味を最後に変えるタイプです。だから二度目に見ると、最初とは違う楽しみ方ができます。
映画スペルのよくある質問
Q1. 映画『スペル』でクリスティンはなぜ呪われたのですか?
A. 銀行で住宅ローンの返済延長を求めたガーナッシュ夫人の申し出を断り、人前で警備員に連れ出させたことが発端です。ガーナッシュは屈辱を受けたと感じ、駐車場でクリスティンを襲い、上着のボタンを使ってラミアの呪いをかけました。
Q2. ラミアの呪いはどのような仕組みですか?
A. 作中では、ラミアは呪われた物の所有者を3日間苦しめ、その後に魂を地獄へ連れ去る存在として説明されます。クリスティンの場合は上着のボタンが媒介になり、そのボタンを正式に別の相手へ贈れば呪いを移せるとされていました。
Q3. 墓に入れた封筒には何が入っていたのですか?
A. クリスティンはボタンを入れた封筒だと思っていましたが、実際にガーナッシュの墓へ持っていったのはクレイのコインが入った封筒でした。途中で封筒を取り違えたため、本物のボタンはクレイの手元に残っていました。
Q4. クリスティンは最後に死亡したのですか?
A. 作中では、期限を迎えたクリスティンが駅の線路へ落ち、地面から伸びた手につかまれて炎の中へ引きずり込まれます。物語上はラミアによって地獄へ連れ去られた結末として描かれています。
Q5. 2020年の映画『Spell』と同じ作品ですか?
A. 別作品です。この記事で扱っているのは、サム・ライミ監督、アリソン・ローマン主演の2009年作品『スペル』、原題『Drag Me to Hell』です。2020年の『Spell』とはストーリーも登場人物も異なります。
スペルのネタバレまとめ
映画『スペル』は、銀行員クリスティンがガーナッシュ夫人の住宅ローン延長を断ったことから、ラミアの呪いに追われる3日間を描いたホラー映画です。
- クリスティンは昇進を意識してガーナッシュの返済延長を断る
- ガーナッシュはボタンを使ってラミアの呪いをかける
- ラミアは3日間苦しめたあと対象者の魂を奪う
- ボタンを他者へ正式に贈れば呪いを移せる
- クリスティンは死んだガーナッシュへ返すことを決める
- 墓へ渡したのはボタンではなくクレイのコインだった
- 本物のボタンが残り、呪いは解除されていなかった
- クリスティンはクレイの目の前で地獄へ引きずり込まれる
2009年版『スペル』の最大の仕掛けは、呪いを解いたと思わせてから、封筒の取り違えですべてを反転させることにあります。
怖い、汚い、笑える。そんな悪ノリを最後まで続けておきながら、終盤だけは容赦なく絶望へ落とす。その落差こそ、この映画が今も語られる理由だと思います。
クリスティンは完璧な善人ではありません。でも、だから地獄行きで当然とも言い切れない。あなたはあのラストを「自業自得」と感じたでしょうか。それとも「さすがに理不尽すぎる」と感じたでしょうか。見終わったあとにその答えが割れるところまで含めて、『スペル』らしい後味です。